くもりびつづき
くもり日つゞき

冒頭文

歌合せ 外に出るのは誰も具合が悪かつた。 それで、飽きもせず彼等は私の部屋に碌々とし続けた。(——と私は今、村での日日を思ひ出すのである。つい此間までの村の私の勉強室である。私は余儀なく村を立ち去つて、今は都に迷ひ出たばかりの時である。) 向ひ側の人の顔だちが定めもつかぬ程濛々と煙草の煙りが部屋一杯に立こめてゐた、冬の、くもり日続きの、村の私の部屋なのだつた。誰も彼も

文字遣い

新字旧仮名

初出

「時事新報 第一六三九七号~第一六四〇一号」時事新報社、1929(昭和4)年2月10日~14日

底本

  • 牧野信一全集第三巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年5月20日