かけるあさ
駆ける朝

冒頭文

「苦労」は後から後から、いくらでもおし寄せてくる。どんな風に撥ねかへし、どんな風に享けいれるか? に、思案がいるが、思案の浮んだためしがない。 ——早朝に起きる。机に、十八型程の大きさの磁石が載つてゐる。文鎮の代りである。此間まで懐中時計を重しに使つてゐたが、悲しい時には、僕にはあのセコンド針の小刻みの音がとても息苦しくなるのだ——そんなことをはなしたら理学土の友達が苦笑して、これを呉れた。

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第二十六巻第八号」新潮社、1929(昭和4)年8月1日

底本

  • 牧野信一全集第三巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年5月20日