あついすなのうえ
熱い砂の上

冒頭文

一 駆け出した、とても歩いたりしてはをられなかつたから——砂が猛々しく焦(や)けてゐて誰にも到底素足では踏み堪(こた)へられなかつた。 「熱い〳〵!」 「素晴しい暑さだ!」 「競争! 競争! 波打ちぎはまで——」 三人の若者と二人の娘が脱衣場から飛び出て、砂を踏んで見ると、熱さに吃驚して、ピヨン〳〵と跳ねあがりながら夢中で波打ちぎはを目がけて駆けて行つた。 「厭々々

文字遣い

新字旧仮名

初出

「週刊朝日 第十六巻第二号」朝日新聞社、1929(昭和4)年7月14日

底本

  • 牧野信一全集第三巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年5月20日