なのはな
菜の花

冒頭文

一 奈良や吉野とめぐつてもどつて見ると、僅か五六日の内に京は目切(めつきり)と淋しく成つて居た。奈良は晴天が持續した。それで此の地方に特有な白く乾燥した土と、一帶に平地を飾る菜の花とが、蒼い天を戴いた地勢と相俟つて見るから朗かで且つ快かつた。京も菜の花で郊外が彩色されて居る。然し周圍の緑が近い爲か陰鬱の氣が身に逼つて感ぜられるのである。余は直ぐに國へ歸らうかと思つた。然し余の好奇心は余を二三

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「ホトトギス」1909(明治42)年8月1日号

底本

  • 長塚節全集 第二巻
  • 春陽堂書店
  • 1977(昭和52)年1月31日