きょもうとしんじつ
虚妄と真実

冒頭文

「食後」の作者に ——君。僕は僕の近來の生活と思想の斷片を君に書いておくらうと思ふ。然し實を云へば何も書く材料はないのである。默してゐて濟むことである。君と僕との交誼が深ければ深いほど、默してゐた方が順當なのであらう。舊い家を去つて新しい家に移つた僕は、この靜かな郊外の田園で、懶惰に費す日の多くなつたのをよろこぶぐらゐなものである。僕には働くといふことが苦手である。ましてや他人の意志の下に働

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「島崎藤村著『小説 食後』序文」博文館、1912(明治45)4月18日

底本

  • 明治文學全集 99 明治文學囘顧録集(二)
  • 筑摩書房
  • 1980(昭和55)年8月20日