むらのストアは
村のストア派

冒頭文

一 沢山な落葉が浮んでゐる泉水の傍で樽野は、籐椅子に凭つて日向ぼつこをしてゐた。彼は、あたりのことには関心なく何か楽し気な思ひ出にでも耽つてゐる者のやうに伸々と空を仰いでゐるが、何時の間にか眠り込んでしまつたのかも知れない、膝の上に伏せてあつた部厚な書物が音をたてゝ足許に滑り落ちても拾はうともしないから。書物は、もう少しで水の上に落ちかゝりさうなところで躑躅の小株につかえてゐた。そして、

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第二十五巻第六号」新潮社、1928(昭和3)年6月1日

底本

  • 牧野信一全集第三巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年5月20日