ちちをうるこ
父を売る子

冒頭文

彼は、自分の父親を取りいれた短篇小説を続けて二つ書いた。 或る事情で、或日彼は父と口論した。その口論の余勢と余憤とで、彼はそれ迄思ひ惑うてゐたところの父を取り入れた第一の短篇を書いたのだ。その小説が偶然、父の眼に触れた。父親は憤怒のあまり、 「もう一生彼奴とは口を利かない。——俺が死ぬ時は、病院で他人の看護で死ぬ。」と顔を赤くして怒鳴つたさうだ。だから彼は、それを聞いて以来、往来で

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第四十巻第五号」1924(大正13)年5月1日

底本

  • 牧野信一全集第二巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年3月24日