そうさくせいかつにて
創作生活にて

冒頭文

窓下の溝川に蛙を釣に来る子供たちが、 「今日は目マルは居ねえのか。」 「居ないらしいぞ。」 などと、ささやき合つてゐるのを聴いた。 さういふ俗称の蛙がゐると見える、いつたい何んな蛙の謂なのか——と私は、読みかけてゐた本を顔の上に伏せて、蚊帳のなかで耳をそばだてた。二三日前に押入の隅から取出した幼児の褓※[#「ころもへん+呂」、396-7]蚊帳だつた。この貸家の先住者が忘れて

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第三十一巻第十一号」新潮社、1934(昭和9)年11月1日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日