つるべとげっこうと
吊籠と月光と

冒頭文

僕は、哲学と芸術の分岐点に衝突して自由を欠いた頭を持てあました。息苦しく悩ましく、砂漠に道を失ったまま、ただぼんやりと空を眺めているより他に始末のない姿を保ち続けていた。 いつの頃(ころ)からか僕は、自己を三個の個性に分けて、それらの人物を架空世界で活動させる術(すべ)を覚えて、幾分の息抜きを持った。で、なく、あの迷妄を一途(いちず)に持ち続けていたらあの遣場(やりば)のない情熱のために、この

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮」1930(昭和5)年3月

底本

  • ゼーロン・淡雪 他十一篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1990(平成2)年11月16日