さどがしま
佐渡が島

冒頭文

一 濱茄子の花 佐渡は今日で三日共雨である。小木の港への街道は眞野の入江を右に見て磯について南へ走る。疎らな松林を出たりはひつたりして幾つかの漁村を過ぎてしと〳〵ゝ沾れて行く。眞野の入江は硝子板に息を吹つ掛けた樣にぼんやりと曇つて居る。其平らな入江の沖には暗礁でもあるものと見えて土手のやうに眞白な波の立つて居る所がある。遠くのことであるから只眞白に見えて居る丈でちつとも動く樣には見えぬ。

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「ホトトギス」第十一巻第二号、1907(明治40)年11月1日

底本

  • 長塚節全集 第二巻
  • 春陽堂書店
  • 1977(昭和52)年1月31日