とうげ

冒頭文

その時、太郎さんは七つ、妹の千代子さんは五つでありました。太郎さんはお父さんに背負はれ、千代子さんはお母さんに背負はれてゐました。 春三月とはいへ、峠の道は、まだきつい寒さでした。夜あけ前の四時ごろ、空にはお星さまが、きら〳〵と氷のやうにかゞやいてゐます。山はどちらを見ても、墨を塗つたやうに真黒で、灯のかげ一つ見えません。お家を出てから、もう一里あまり山の中へ入つて来たのであります。お父

文字遣い

新字旧仮名

初出

「童話」コドモ社、1924(大正13)年4月

底本

  • 日本児童文学大系 第九巻
  • ほるぷ出版
  • 1977(昭和52)年11月20日