だいぼさつとうげ 30 ちくしょうだにのまき
大菩薩峠 30 畜生谷の巻

冒頭文

一 今、お雪は、自分の身を、藍色(あいいろ)をした夕暮の空の下、涯(はて)しを知らぬ大きな湖の傍で見出しました。 はて、このところは——と、右を見たり、左を見たりしたが、ちょっとの思案にはのぼって来ない光景であります。 白骨谷(しらほねだに)が急に陥没して、こんな大きな湖になろうとは思われないし、木梨平の鐙小屋(あぶみごや)の下の無名沼(ななしぬま)が、一夜のうちに拡大し

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 大菩薩峠12
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1996(平成8)年5月23日