一 その日は十二三里の道を、一日乗り合い馬車に揺られながらとおした。やっとの思いで、その遠野町(とおのまち)に着いたころは、もうすっかり夜が更けていた。しかも、雪が降りしきっていて、寒さが骨に沁む。—— 三月に入ってからだったが、北の方の国ではまだ冬だ。 やっとその町に入ったころは、町はおおかた寝静まっていた。……暗い狭い町の通りが、道も家も凍りついたようにしんとして、燈