ふくろうなく
梟啼く

冒頭文

私には信光(のぶみつ)というたった一人の弟があった。鹿児島の平の馬場で生れた此弟が四つの年(その時は大垣にいた)の御月見の際女中が誤って三階のてすりから落し前額に四針も縫う様な大怪我をさせた上、かよわい体を大地に叩き付けた為め心臓を打ったのが原因でとうとう病身になってしまった。弟の全身には夏も冬も蚤の喰った痕の様な紫色のブチブチが出来、癇癪が非常に強くなって泣く度に歯の間から薄い水の様な血がにじみ

文字遣い

新字新仮名

初出

「ホトトギス」1918(大正7)年11月

底本

  • 杉田久女随筆集
  • 講談社
  • 2003(平成15)年6月10日