はせがわふたばてい
長谷川二葉亭

冒頭文

長谷川二葉亭氏にはつい此あひだ上野精養軒で開かれた送別會の席上で、はじめてその風丰に接したぐらゐであるから、わたくしには氏に對して別に纏つた感想などのありやうもない。だが、質素な身なりと、碎けた物言ひぶりと、眉根に籠つた深く暗い顰みと、幅のある正しい肩つきと、これだけがわたくしの二葉亭氏から最初に受けた消し難き印象である。この印象のうちにも、仔細にたづねて見れば、二葉亭氏の半生の謎がどこかに隱され

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「趣味」1908(明治41)年7月

底本

  • 明治文學全集 99 明治文學囘顧録集(二)
  • 筑摩書房
  • 1980(昭和55)年8月20日