「さいげつ」ぜんき
「歳月」前記

冒頭文

しばらく戯曲の創作から遠ざかつてゐると、近頃はまた戯曲が書いてみたくなつた。どうして戯曲を書かなくなつたのかと人からよく訊かれるが、別に深い理由があるわけではない。たゞ、すこし休んだ方がいゝやうな気がしただけである。 休んでゐるうちに、今迄書いたものがどうしてああ満足に舞台化されなかつたかといふ微妙な点について、はつきりした原因が自分にもわかり、ある覚悟に到達することができた。

文字遣い

新字旧仮名

初出

「歳月」創元選書、創元社、1939(昭和14)年9月10日

底本

  • 岸田國士全集28
  • 岩波書店
  • 1992(平成4)年6月17日