「とき・ところ・ひと」まえがき
「時・処・人」まへがき

冒頭文

これは随筆集といふよりも、寧ろ雑文集である。私はこの十年間、ほとんど随筆的心境といへるやうな心境を味つたことはなかつた。もとより文人墨客趣味などはないところへもつて来て、時代が時代と来てゐるので、周囲を見る眼が絶えず血走りがちである。たまたま随筆風な題を与へられても、すぐに、それにからんで日頃の鬱憤を晴らさうといふ気になる。誠にわれながら大人げない次第だと思ふ。 いくぶん調子を和らげるた

文字遣い

新字旧仮名

初出

「時・処・人」人文書院、1936(昭和11)年11月15日

底本

  • 岸田國士全集28
  • 岩波書店
  • 1992(平成4)年6月17日