へいしとじょゆう
兵士と女優

冒頭文

オング君は戦争から帰って、久し振りで街を歩きました。軒並のハイカラな飾窓の硝子(ガラス)に、日やけして鳶色(とびいろ)に光っている顔をうつしてみました。高価なネクタイだのチェッコスロバキヤの硝子細工だのを売る店の様子は戦争に行く前とちっとも変っていませんでした。 「ちょいと、ちょいとってば!」 顔に黄色い粉をはたきつけた派手な様子の娘が、オング君をうしろから呼びとめました。 「お

文字遣い

新字新仮名

初出

「探偵趣味」1928(昭和3)年7月号

底本

  • 「探偵趣味」傑作選 幻の探偵雑誌2
  • 光文社文庫、光文社
  • 2000(平成12)年4月20日