つまのにっき |
妻の日記 |
冒頭文
かういふ場所で私事(わたくしごと)を語ることは、由来、私の最も好まぬところである。如何なる理由があらうとも、誰がどう勧めようとも、私は今日までその気持を押し通して来た。従つて、小説の形ですらも、「私」の身辺を題材とすることは、それがたとへ現代文学の主潮であらうとなからうと、私は頑として享け容れなかつたのである。 ところが、去年は母の死に遭ひ、今年はまた妻を喪つて、私の生活は激しく揺り動か
文字遣い
新字旧仮名
初出
「婦人公論 第二十八年新年号、二月号」1943(昭和18)年1月1日、2月1日
底本
- 岸田國士全集26
- 岩波書店
- 1991(平成3)年10月8日