かぜひとたば
風邪一束

冒頭文

年久しくその名を聞き、常に身辺にそれらしいものゝ影を見ながら、未だ嘗てその正体をしかと捉へることの出来ないものに、風邪(かぜ)がある。 風邪は云ふまでもなく一種の病である。多くは咽喉が荒れ、咳が出、鼻がつまり、頭が痛み、時には熱が上り、食慾進まず、医師の手を煩はす場合が屡々ある。 凡そ今日では、病気の数がどれくらゐ殖えたらうか。病名がきまつて、病原のわからぬものも随分あると聞い

文字遣い

新字旧仮名

初出

「時事新報」1929(昭和4)年1月3、4日

底本

  • 岸田國士全集21
  • 岩波書店
  • 1990(平成2)年7月9日