はしるノート
走るノート

冒頭文

四十年ぶりで、郷里を訪れたいといふ母の望を叶へる好機会である。私は、講演旅行の勧めに応じた。それで、いよいよ出発といふ段取りになつて、家に病人ができ、母は病人を置いて家を明けることを気遣ひ、私もそれは仕方がないこととして、一方、講演の約束を今更破ることもできないので、不本意ながら、まあ、若葉は到るところにあらうといふぐらゐの気持で旅に出た。 食堂車の窓から、朝の関ヶ原を——あの山の影と茶

文字遣い

新字旧仮名

初出

「サンデー毎日 第六年第二十七号(夏季特別号)」1927(昭和2)年6月15日

底本

  • 岸田國士全集20
  • 岩波書店
  • 1990(平成2)年3月8日