やまぶきのしん
棣棠の心

冒頭文

ファルギエール通りの貸本屋で、「マリイへの御告」を借りて来て、それをモンパルナスの墓地で読んだ——クロオデルを初めて知つたのはその時である。 ボオドレエルの死像の前に菫の花束などが置いてあつた。 なるほど、これは違つた世界だ——さう思つた。 やがて、喪服を着た若い女の、つゝましい瞬きに心を惹かれた。 ——然し、その女は「天刑病者の接吻(くちづけ)を受けた女」

文字遣い

新字旧仮名

初出

「ゆかり」改造社、1924(大正13)年12月25日

底本

  • 岸田國士全集19
  • 岩波書店
  • 1989(平成元)年12月8日