しずかなるられつ |
| 静かなる羅列 |
冒頭文
一 Q川はその幼年期の水勢をもつて鋭く山壁を浸蝕した。雲は濃霧となつて溪谷を蔽つてゐた。 山壁の成層岩は時々濃霧の中から墨汁のやうに現れた。濃霧は川の水面に纏りながら溪から溪を蛇行した。さうして、層々と連る岩壁の裂け目に浸潤し、空間が輝くと濃霧は水蒸気となつて膨脹した。 Q川を挾む山々は、此の水勢と濃霧のために動かねばならなかつた。 その山巓の屹立した岩の上では夜毎に北斗が傲然と輝いた
文字遣い
新字旧仮名
初出
「文藝春秋」1925(大正14)年7月号
底本
- 短篇小説名作選
- 現代企画室
- 1981(昭和56)年4月15日