ななこ
奈々子

冒頭文

其日の朝であつた、自分は少し常より寢過して目を覺すと、子供達の寢床は皆殼になつてゐた。自分が嗽に立つて臺所へ出た時、奈々子は姉なるものゝ大人下駄を穿いて、外とへ出ようとする處であつた。凉爐の火に煙草を喫つてゐて、自分と等しく奈々子の後姿を見送つた妻は、 『奈々ちやんはねあなた、昨日から覺えてわたい、わたいつて云ひますよ。 『さうか、うむ。 答へた自分も妻も同じやうに、愛の笑が自から顏

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「ホトヽギス 第十二卷第十二號」1909(明治42)年9月1日

底本

  • 左千夫全集 第三卷
  • 岩波書店
  • 1977(昭和52)年2月10日