すいがいざつろく |
水害雑録 |
冒頭文
一 臆病者といふのは、勇氣の無い奴に限るものと思つて居つたのは誤りであつた。人間は無事を希ふの念の強よければ、其の強いだけそれだけ臆病になるものである。人間は誰とて無事を希ふの念の無いものは無い筈であるが、身に多くの係累者を持つた者、殊に手足まとひの幼少者などある身には、更に痛切に無事を願ふの念が強いのである。 一朝禍を蹈むの塲合にあたつて、係累の多い者程、慘害は其慘の甚しいも
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「ホトヽギス 第十四巻第二号」1910(明治43)年11月1日
底本
- 左千夫全集 第三巻
- 岩波書店
- 1977(昭和52)年2月10日