いっか
一家

冒頭文

友人と共に夕食後の散歩から歸つて來たのは丁度七時前であつた。夏の初めにありがちのいやに蒸し暑い風の無い重々しい氣の耐へがたいまで身に迫つて來る日で、室(へや)に入つて洋燈(ランプ)を點けるのも懶(ものう)いので、暫くは戲談口(じやうだんぐち)などきき合ひながら、黄昏(たそがれ)の微光の漂つて居る室の中に、長々と寢轉んでゐた。 しばらくして友が先づ起き上つて灯を點けた。その明るさが室の内を

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「東亞の光」1907(明治40)年12月号

底本

  • 若山牧水全集 第九卷
  • 雄鶏社
  • 1958(昭和33)年12月30日