ねんがじょう
年賀状

冒頭文

友人鵜照(うてる)君、明けて五十二歳、職業は科学的小説家、持病は胃潰瘍(いかいよう)である。 彼は子供の時分から「新年」というものに対する恐怖に似たあるものを懐(いだ)いていた。新年になると着なれぬ硬直な羽織はかまを着せられて親類縁者を歴訪させられ、そして彼には全く意味の分らない祝詞(しゅくし)の文句をくり返し暗誦させられた事も一つの原因であるらしい。そして飲みたくない酒を嘗(な)めさせ

文字遣い

新字新仮名

初出

「東京朝日新聞」1929(昭和4)年1月1日、3日

底本

  • 寺田寅彦全集 第三巻
  • 岩波書店
  • 1997(平成9)年2月5日