ちりめんのこころ
縮緬のこころ

冒頭文

おめしちりめんといふ名で覚えてゐる——それでつくられてゐた明治三十年代、私の幼年時代のねんねこ。それも母のきものをなほしたねんねこだつたからそれよりずつとむかし、明治二十年前後の織物だつたかもしれない。そのねんねこで若いきれいな守女におぶさるのがうれしかつた。柄は紫の矢はづだつたと思ふ。きめが細かくて、そのくせ、しぼが、さらつとして柔かく、しんにぴんとした感じがあつた。何といふ古風な紫の上品な色調

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆38 装
  • 作品社
  • 1985(昭和60)年12月25日