一 「おばあさんがいよいよ來るんですとさ。」 私はひとごとのやうに云つて、彼の顏色をチラと窺つた。 「來られるのかね。」 「來るときめてゐるらしいわ。」 私達夫婦は何事につけてもあまり多くを語らない。大きな卓の向うで、彼は僅かな言葉を洩らす間も、たいてい何かを讀んでゐる。私は傳へなければならない僅かをやうやうの思ひで云つてしまふと、いつもの癖で、目を硝子戸の外に向けた。つい先