けいさんはけいさん |
| 計算は計算 |
冒頭文
一 悪夢のやうな戦争がすんで、その悪夢の名残りとも思はれる重苦しい気分が、まだ続いてゐるいく年か後のことである。 もう五十を二つ三つ越して、十年一日のやうな教師といふ職業に、すこし疲れをおぼえかけた守屋為助は、性来、ものごとにこだはらず、どこまでも善意をもつて人に接するといふ風な人物であつたにも拘はらず、近頃、ふとしたことに思ひ悩んで、めづらしく暗い顔を家のものにも見せるやうなことがある。
文字遣い
新字旧仮名
初出
「別冊文芸春秋 第十九号」1950(昭和25)年12月25日
底本
- 岸田國士全集17
- 岩波書店
- 1991(平成3)年11月8日