きょうそう
競漕

冒頭文

一 毎年春季に開かれる大学の競漕(きょうそう)会がもう一月と差し迫った時になって、文科の短艇(ボート)部選手に急な欠員が生じた。五番を漕(こ)いでいた浅沼が他の選手と衝突して止(や)めてしまったのである。艇長の責任がある窪田(くぼた)は困った。敵手の農科はことにメンバアが揃(そろ)っていて、一カ月も前から法工医の三科をさえ凌(しの)ぐというような勢いである。翻(ひるがえ)って味方はと見ればせ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新思潮」1916(大正5)年6月

底本

  • 日本の文学 78 名作集(二)
  • 中央公論社
  • 1970(昭和45)年8月5日