一 友愛塾(ゆうあいじゅく)・空林庵(くうりんあん) ちゅんと雀(すずめ)が鳴いた。一声鳴いたきりあとはまたしんかんとなる。 これは毎朝のことである。 本田次郎(じろう)は、この一週間ばかり、寒さにくちばしをしめつけられたような、そのひそやかな、いじらしい雀の一声がきこえて来ると、読書をやめ、そっと小窓のカーテンをあけて、硝子戸(ガラスど)ごしに、そとをのぞいて見る習慣に