けむりをはかぬえんとつ
けむりを吐かぬ煙突

冒頭文

外はスゴイ月夜であった。玄関の正反対側から突出ている煙突の上で月がグングンと西に流れていた。 庭の木立の間の暗いジメジメした土の上を手探りで歩いて行くうちにビッショリと汗をかいた。蜘蛛(くも)の巣が二三度顔にまつわり付いたのには文字通り閉口した。道を間違えたらしかったが、それでも裏門に出ることは出た。 潜戸(くぐりど)から首だけ出した。誰も居ない深夜の大久保の裏通りを見まわした

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 夢野久作全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1992(平成4)年8月24日