おどるちへいせん 10 ながぐつのはる |
踊る地平線 10 長靴の春 |
冒頭文
1 反照電熱機のような、香橙色(オレンジ)の真(ま)ん円(まる)な夕陽を、地中海が受け取って飲み込んだ。同時に、いろいろの鳥が一せいに鳴き出して、白楊(はくよう)の林が急に寒くなった。私は、それらの現象を、すこしも自分に関係のないものとして、待合室の窓から眺めていた。その窓硝子(ガラス)には、若い春の外気が、繊細な花模様を咲かせていた。 そこは、ふらんすと伊太利(イタリー)の国境駅
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 踊る地平線(下)
- 岩波文庫、岩波書店
- 1999(平成11)年11月16日