ゆめはよびかわす ――もくしおぼえがき――
夢は呼び交す ――黙子覚書――

冒頭文

書冊の灰 二月も末のことである。春が近づいたとはいいながらまだ寒いには寒い。老年になった鶴見には寒さは何よりも体にこたえる。湘南の地と呼ばれているものの、静岡で戦災に遭(あ)って、辛(つら)い思いをして、去年の秋やっとこの鎌倉へ移って来たばかりか、静岡地方と比べれば気温の差の著(いちじ)るしい最初の冬をいきなり越すことが危ぶまれて、それを苦労にして、耐乏生活を続けながら、どうやら今日まで故障

文字遣い

新字新仮名

初出

「藝林間歩」1946(昭和21)年6月~1947(昭和22)年

底本

  • 夢は呼び交す
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1984(昭和59)年4月16日