どくぼう
独房

冒頭文

誰でもそうだが、田口もあすこから出てくると、まるで人が変ったのかと思う程、饒舌(じょうぜつ)になっていた。八カ月もの間、壁と壁と壁と壁との間に——つまり小ッちゃい独房の一間(ひとま)に、たった一人ッ切りでいたのだから、自分で自分の声をきけるのは、独(ひと)り言(ごと)でもした時の外はないわけだ。何かものをしゃべると云ったところで、それも矢張り独り言でもした時のこと位だろう。その長い間、たゞ堰(せ)

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論 夏期特集号」中央公論社、1931(昭和6)年7月

底本

  • 工場細胞
  • 新日本文庫、新日本出版
  • 1978(昭和53)年2月25日