ひとつのエチケット
一つのエチケット

冒頭文

七月、谷川に行った帰りだった。ちょうど集会の夜だったので、私は例のようにもう、とぐろを巻いて怪弁を振るっているであろう仲間たちの顔を思いうかべながら、地下鉄にゆられていた——とつぜん、背後から声をかけられた私は振り返った。そこに立っていたのは一人の青年だった。がっちりと、背の高い、面もなかなかの男振りで、軽い着流し姿は涼みがてらに夜店を冷やかしての帰りであろうか。彼はにこやかに話しかけてきた。

文字遣い

新字新仮名

初出

「会報・山窓欄」1948(昭和23)年10月

底本

  • 風雪のビバーク
  • 二見書房
  • 1971(昭和46)年1月12日