あるきょうじゅたいしょくのじ
或教授の退職の辞

冒頭文

これは楽友館の給仕が話したのを誰かが書いたものらしい、 而もそれは大分以前のことであろう。 初夏の或晩、楽友館の広間に、皓々(こうこう)と電燈がかがやいて、多くの人々が集った。この頃よくある停年教授の慰労会が催されるのらしい。もう暑苦しいといってよい頃であったが、それでも開け放された窓のカーテンが風を孕(はら)んで、涼しげにも見えた。久しぶりにて遇った人もあるらしい。一団の人々がここか

文字遣い

新字新仮名

初出

「思想 第八十三号」1929(昭和4)年4月

底本

  • 続思索と体験『続思索と体験』以後
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1980(昭和55)年10月16日