わがつまのき
わが妻の記

冒頭文

素姓 中学時代の同窓にNという頭のいい男がいた。海軍少尉のとき、肺を病つて夭折したが、このNの妹のK子が私の妻となつた。 妻の父はトルストイにそつくりの老人で税務署長、村長などを勤め、晩年は晴耕雨読の境涯に入り、漢籍の素養が深かつた。 私の生れは四国のM市で、妻の生れは同じ市の郊外である。そして彼女の生家のある村は、同時に私の亡き母の実家のある村である。だから、私が始めて

文字遣い

新字新仮名

初出

「りべらる」1946(昭和21)年4月号

底本

  • 新装版 伊丹万作全集2
  • 筑摩書房
  • 1961(昭和36)年8月20日