きょうふについて
恐怖について

冒頭文

恐怖なんて、無くもがなである。 ——と片づけてしまふ人は、話にならない。恐怖は人間の神經を刺戟することが大きい。ひどい場合は、その場に立ち竦んで心臟痲痺を起したり、或ひは一瞬にして頭髮悉く白くなつて白髮鬼となつたりする。そんな恐怖に自分自身が襲はれることはかなはんが、さういふ恐怖がこの世にあることを聽くのは極めて興味深い。探偵小説が喜ばれる一つの原因は、恐怖といふものが盛られてゐることに

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「ぷろふいる」1934(昭和9)年5月号

底本

  • 海野十三メモリアル・ブック
  • 先鋭疾風社
  • 2000(平成12)年5月17日