あいじんとえんじん
愛人と厭人

冒頭文

有島武郎君の「惜みなく愛は奪ふ」は出版されるや否や非常な売れ行きであるさうな。しかし売れ行きといふことが直にその本の真価を示すものではないと同時に、売れ行く本は直に俗受けのものと独断して、文壇の正系(?)が之を無視するのはよくないことだ。過般有島君の芸術を通じてその生活を一般が云々(うんぬん)することについて、中央文学に一寸(ちよつと)書いた時、「三部曲」の批評が出なかつたことを指摘して置いたが、

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮」1920(大正9)年8月

底本

  • 惜しみなく愛は奪う
  • 角川文庫、角川書店
  • 1969(昭和44)年1月30日改版