ごがつのあさのはな
五月の朝の花

冒頭文

ものものしい桜が散った。 だだっぴろく……うんと手足を空に延ばした春の桜が、しゃんら、しゃらしゃらとどこかへ飛んで行ってしまった。 空がからっと一たん明るくなった。 しんとした淋しさだ。 だが、すこし我慢してじっと、その空を仰いでいた。 じわじわと、どこの端からかその空がうるんみ始めましたよ、その空が、そして、空じゅうそのうるみが拡がって。

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆1 花
  • 作品社
  • 1983(昭和58)年2月25日