とけいとステッキ
時計とステッキ

冒頭文

私は、今、時計といふものを持つて歩かない。時間を超越するほど結構な生活をしてゐる訳ではないが、時計を持つてゐなくつても、どうやら用事は足りるのである。そのかはりどこへ行つても、時間を知りたい時には、時計を持つてゐさうな人に、「いま何時?」と問ひかける。時間をきめて人を訪ねる時など、その家の近所へ辿りつくと、軒並みに薄暗い店のなかへ、それとなく素早い視線を投げて、柱時計のありかを一瞬間に突き止める修

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆91 時
  • 作品社
  • 1990(平成2)年5月20日