すいか
西瓜

冒頭文

一 これはM君の話である。M君は学生で、ことしの夏休みに静岡在(ざい)の倉沢という友人をたずねて、半月あまりも逗留していた。 倉沢の家は旧幕府の旗本で、維新の際にその祖父という人が旧主君の供をして、静岡へ無禄移住をした。平生から用心のいい人で、多少の蓄財もあったのを幸いに、幾らかの田地を買って帰農したが、後には茶を作るようにもなって、士族の商法がすこぶる成功したらしく、今の主人すな

文字遣い

新字新仮名

初出

「文學時代」1932(昭和7)年2月

底本

  • 異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二
  • 原書房
  • 1999(平成11)年7月2日