きそのたびびと
木曽の旅人

冒頭文

一 T君は語る。 そのころの軽井沢は寂(さび)れ切っていましたよ。それは明治二十四年の秋で、あの辺も衰微の絶頂であったらしい。なにしろ昔の中仙道の宿場(しゅくば)がすっかり寂れてしまって、土地にはなんにも産物はないし、ほとんどもう立ち行かないことになって、ほかの土地へ立退(たちの)く者もある。わたしも親父(おやじ)と一緒に横川で汽車を下りて、碓氷(うすい)峠の旧道をがた馬車にゆられ

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝倶樂部」1897(明治30)年

底本

  • 異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二
  • 原書房
  • 1999(平成11)年7月2日