くびかざり
頸飾り

冒頭文

その女というのは男好きのしそうなちょっと見奇麗な娘であった。このような娘は折々運命(なにか)の間違いであまりかんばしくない家庭に生まれてくるものである。無論、持参金というようなものもなく、希望(のぞみ)など兎(う)の毛でついた程もなかった。まして金のある上流の紳士から眼をつけられて愛せられ、求婚されるというようなことは夢にもありはしない。とかくして、彼女はある官庁の小役人の処に嫁(ゆ)くこととなっ

文字遣い

新字新仮名

初出

「実験教育指針」1908(明治41)年9月

底本

  • 辻潤全集 第八巻
  • 五月書房
  • 1982(昭和57)年10月30日