りょうゆうあくゆう
良友悪友

冒頭文

「失恋が、失恋のまゝで尾を曳(ひ)いてゐる中(うち)は、悲しくても、苦しくても、口惜(くや)しくつても、心に張りがあるからまだよかつた。が、かうして、忘れよう〳〵と努力して、それを忘れて了(しま)つたら、却(かへ)つてどうにも出来ない空虚が、俺(おれ)の心に出来て了つた。実際此(こ)の失恋でもない、況(いは)んや得恋でもない、謂(い)はゞ無恋の心もちが、一番悲惨な心持なんだ。此の落寞(らくばく)た

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文章世界」1919(大正8)年10月

底本

  • 現代日本文學大系 45 水上瀧太郎 豐島與志雄 久米正雄 小島政二郎 佐佐木茂索 集
  • 筑摩書房
  • 1973(昭和48)8月30日