もつれいと
もつれ糸

冒頭文

「銀さんー」と、女は胸に手を差入れて、切ない思いをこらへながら、みんなあたしが悪かつたの、耐忍(かに)しておくれ、ねあたしだつて、何も酔興で、彼家へ嫁入つたといふのじやなしさ、お前さんも知つての通りな羽目になつて、よんどころなく、つひ……」 と男の面(かほ)をそつとながめて、ほろりとした。年の二十三か四でもあろう。頭髪(かみ)の銀杏返(いてふがえし)とうに結つて、メレンスと繻子の昼夜帯の、だらり

文字遣い

新字旧仮名

初出

「万朝報」1899(明治32)年8月

底本

  • 紫琴全集 全一巻
  • 草土文化
  • 1983(昭和58)年5月10日