したゆくみず
したゆく水

冒頭文

第一回 本郷西片町の何番地とやらむ。同じやうなる生垣建続きたる中に、別ても眼立つ一搆え。深井澄と掲げたる表札の文字こそ、さして世に公ならね。庭の木石、書斎の好み、借家でない事は、一眼で分る、立派なお住居。旦那様は、稚きより、御養子の、お里方は疾くに没落。なにかにつけて、奥様の親御には、一方ならぬ、御恩受けさせたまひしとて。お家では一目も二目も置きたまへど。敷居一ツ外では、裸体にしても、百円が

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文芸倶楽部」1897(明治30)年2月

底本

  • 紫琴全集 全一巻
  • 草土文化
  • 1983(昭和58)年5月10日