こころのおに
心の鬼

冒頭文

上 五百機(いほはた)立てて綾錦、織りてはおろす西陣の糸屋町といふに、親の代より仲買商手広く営みて、富有の名遠近(おちこち)にかくれなき近江屋といふがあり。主人(あるじ)は庄太郎とて三十五六の男盛り、色こそは京男にありがちの蒼白過ぎたる方にあれ、眼鼻立ちも尋常に、都合能く配置されたれば、顔にもどこといふ難はなく、風体も町人としては上品に、天晴れ大家の旦那様やと、多くの男女に敬まはるる容子(よ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文芸倶楽部」1897(明治30)年1月

底本

  • 紫琴全集 全一巻
  • 草土文化
  • 1983(昭和58)年5月10日